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欧州で見たシティーバス

取材・執筆:長谷川 吉典(写真とも)

ドア容量の大きいバス

信用乗車制度のもとでは、ドア容量を大きくすることが乗降時間短縮に相当有効です。写真はフランス・グルノーブル市内でLRTと同じ事業主体(TAG)が運行しているバスです。赤白の塗装は今では旧塗装になります。トラムと同じシルバーメタリックの塗装(京都市のリーフレットの写真の塗装)は、1993年時点では、ごく少数の新車のみでした。

さて、写真のように、バスは2列で乗降できるドアを3箇所そなえています。写真では見えにくい黒いドアのそれぞれの内側に、通路を2列に分ける銀色の手すりがあるのがわかりますでしょうか。これは、ステップがあることを除けば、京阪や阪急の電車に匹敵するドア容量です。側面のモジュール数で数えると7分の3がドアに割り当てられています。

利便性のために都市内の路線バスの停留所間隔を短くしようとすると、表定速度を落とさないためには停留所での乗降時間の短縮が非常に重要になってきますが、ドア容量の拡大は、乗降時間短縮へのもっとも基本的な対処方策といえましょう。

ひるがえって京都市内のバスの場合、いまや乗降時間短縮はすっかりあきらめた感が ありますが、LRTの運賃収受方法を考えるついでに、バスについても新しい工夫が 生みだされたりはしないかな? と思うところです。


ちなみに、写真のバスの車種は、ルノーPR100です。PR100は、サヴィエムと合併してRVI(ルノー)になる前のベルリエというメーカーが1971年5月に発表し、翌年9月ディジョンで採用されたのを皮切りに大ヒットになった、ドイツのメルセデスベンツO305やMAN SL200、オランダDAFのSB200、英国レイランドのレイランドナショナルなどと並ぶ、ヨーロッパの市街地路線バスの近代化の嚆矢のひとつです。

そのPR100の発表から12年後、1983年の第25回東京モーターショーで、 いすゞキュービックが発表されました。キュービックの写真もお見せしましょう。キュービックのデザインが“パクリ”か“リスペクト”かは見解が分かれるかも知れませんが、当時の自動車雑誌(二玄社『CAR GRAPHIC』1984年7月号)には「時評/警笛 今なお、日本人はコピイストなのか」という記事が掲載されました。

写真:ルノーPR100
☆写真はグルノーブルの“ルノーPR100”(Grand’Place:1993年撮影)

写真:いすゞキュービック
☆写真は“いすゞキュービック”(西大寺駅:2001年撮影)

連節バス

写真は連節バスです。車種は黒いオデコが特徴のユーリエGX187、PR100の連節バス版PR180のアンダーフレームにユーリエがオリジナルのボディーを架装したモデルです。

写真のとおり2段ステップのバスです。床面は後から前に行くほど低くなっています。全長は17.86m、乗客定員は163(座席39+立席124)です。大量の乗客を3箇所の2列乗降のドアでさばきます。

GX187(PR180)は、リアエンジンで最後軸を駆動する“プッシャー”です。プッシャーは中間軸が滑るとくの字に折れ曲がって危険なので、中間軸が滑り始めると連節軸を自動的にロックする装置を持っています。連接軸のまわりには、リアユニットが勝手な動きをするのを防ぐダンパーも装備されています。

リアエンジンの連節バスにはプッシャーの他に、中間軸を駆動して前輪と後輪がステアするものや、センターデフを介して後軸と中間軸の2軸を駆動するものもあります。リアエンジンの他にはアンダーフロアエンジンで中間軸を駆動するものもあります。


日本の連節バスの状況については、 Wikipedia がまとまっています。車輛については、連節バス固有のメカについて日本のメーカーは技術を持たないので、国内の導入事例ではシャシーの輸入か完成車の輸入かどちらかになっています。

日本での連節バスの運賃収受については、例えば、 京成バスの事例 では、関西では奈良交通の路線バスで多用されているのと同じ、最も乗降時間短縮が求められる駅で運賃収受を行わない「駅行きは先払い、駅からは後払い」方式にしているようです。

2005年3月に運行を開始した 神奈川中央交通の連節バス では、整理券ワンマンのため、朝ラッシュ時(9時〜9時半)以外の時間帯は、中高校舎前以外の停留所では先頭の出入口のみを使って客扱いしているようです。 写真 をみると運賃箱の横に整理券発行機があります。

写真:グルノーブルのバス
☆写真はグルノーブルのバス(トラムB線 Universites:1993年撮影)

グルノーブルの新塗装(現行塗装)のバス

写真はLRTに合わせた新塗装(現在のカラーリング)のグルノーブルのバスです。

見た目にたいへんすっきりして見えます。写真の車輛が側面の広告枠を空にしているせいもありますが、シルバーメタリックをメインカラーにした斬新かつ洗練された配色と流線(水平線)を強調したある意味古典的なシンプルな塗り分けにプラスして、標記が控えめでステッカーの類を貼っていないことの効果が大きいと思います。

京都の市バスのカラーリングも、あまりにも無造作に記入されている車番や出入口などの標記類とたくさんのステッカー類を見直すだけで、古都の風土に合い長い年月見ても飽きずしかも洗練されたなかなかのデザインになるのではなかろうか、と思います。


さて、写真のバスの車種はルノーR312です。

写真では見えないバスの右サイドには2列乗降のドアが3箇所あります。日本のワンステップバスと違いR312の床は後部まで完全に低いので、客室の前後と中央、側面のモジュールでいうと1・4・7番目がドアになっています。

ルノーR312は合併前の旧ベルリエPR100と旧サヴィエムSC10の2系列の置き換えとして1984年に発表された車体長12mの大型ワンステップバスです。縦型エンジンをリアに押し込めることで、客室全長にわたる低くフラットな床と出入口の1段ステップを実現しました。

R312の仕様は日本であれば2005年の現在でも完全に通用するものですが、フランスでは1994年にユーリエがノンステップのGX317を発表したことで競争力を失い、1995年発表のノンステップバス、Agoraと交代します。

写真:R312
☆写真はグルノーブルのR312(Trois Dauphins:1993年撮影)

ノンステップバス

1993年のヨーロッパにはすでにノンステップバスの量産モデルがありました。

写真はオーストリア西部の町、フェルトキルヒのバスです。

シンプルなカラーリングに横文字で“S T A D T BUS”と書いてあると何となくカッコよく感じますが、あちらの人が見ると日本人が「町営バス」と書いてあるのを目にするのと同じような感じなのかな? と思ったりもします。

車種はドイツのネオプランのN4009です。当時、実車を見て個人的にはたいへんな衝撃を受けたものですが、2005年の今では日本のバスのレベルもこれに匹敵するレベルまで進歩したといえるでしょう。

写真のN4009のステップ高さは320mm、ニーリング70mmのようです。扉の幅は、中央の両開きが1350mm、前の片開きが860mmです。同じフロントオーバーハングで両開きの前扉も選択できるようです。

ちなみに国内メーカーのノンステップバスは1997年の三菱ふそうMPが最初で、京都市交通局は1997年3月に同車を2台導入し203号系統に投入しました。全メーカーのモデルが揃ったのは翌1998年からだったと思います。

写真:フェルトキルヒのN4009
☆写真はフェルトキルヒのバス(Bahnhof:1993年撮影)

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