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ドイツ・カッセルの市電

取材・執筆:長谷川 吉典(写真とも)

信用乗車方式の市電

写真はちょっと古いもの(1993年撮影)ですが、ヨーロッパの信用乗車方式の市電の例をご紹介します。

写真はドイツのカッセル市電で、超低床車輛の“はしり”のものの一つでした。

特殊構造の台車によって客室床面を全面超低床化した車輛はまだ開発中の時期で、この車輛は従来からの3車体連接車とほぼ同じ構造をしています。

カッセル市電は終点につくとループ線で編成ごとぐるっと向きを変える方式なので、車輛の扉は、バスと同じように写真に写っている側にだけついています。右側通行ですから運転席は写真の右側のエンドに1箇所だけ設置されています。この運転席の位置の扉が1列乗降で、あとの4箇所の扉は2列乗降ができます。

写真:カッセル市電の3車体連接車
☆写真はカッセル市電の3車体連接車(1993年撮影)

扉と消印機

写真はカッセル市電の扉の周辺と車内の消印機のようすです。

車輛の床の高さは写真のとおりです。乗り場との段差は非常に小さくなっています。

黄色い扉に赤い▲印がついていますが、▲印の横の赤いボタンが車外からドアを開けるスイッチです。停留所では乗客がスイッチを操作してドアを開ける半自動ドアです。そして、扉の中の中央に見えるオレンジ色の箱が“消印機”です。キップを差し込むとガチャンと音がして乗車日時が印字されます。乗客は、1回券や回数券で乗車した場合は必ず、乗車後ただちに自分でキップに日時を印字しておかないといけません。

市電が停留所を発車したとたん、とつぜん私服の検札チームが身分証明書を提示して検札を始めることがあります。このときに有効なキップを提示できないと、問答無用で書類を書かされて検札係員といっしょに次の停留所で下車させられるようです(あとの処置は見ていないのでわかりません。反則金を払わされるはずですが……)。

このドイツのカッセルのほか、フランスのリールやグルノーブルの市電に乗車したときには、1冊購入した回数券を使い切る前に各都市とも1回検札に遭遇しました。スイスのベルン市電では検札に遭わなかったので、十数回の乗車で1回検札に遭う頻度が平均的なものかどうかはわかりません。

このような消印機を使ったセルフ改札のシステムを導入したことで、市電やバスでは停留所で車輛の全部の扉をつかって大勢の乗客が一斉に乗降することができます。市電だけでなく都市内バスの車輛も前扉・中扉ともに2列で通るものが一般的です。

多人数乗降時の乗降時間短縮だけでなく、運賃支払いに手間取る乗客がいて不意に長くなったりしない安定した停車時間の実現にも、信用乗車方式は非常に有効といえます。

写真:カッセル市電の扉と消印機
☆写真はカッセル市電の扉と消印機(1993年撮影)

車内の自動券売機

写真はカッセル市電の車内のようすです。終点のループ線のところなので、車両はグネグネと曲がったレールの上にいます。

オレンジ色の箱の大/中/小で説明しますと……、

まず大きなオレンジ色の箱が自動券売機です。市電のキップは駅の案内所をはじめ街中の各所で発売していますが、車内の自動券売機から購入することもできます。なお、自分は車内の自動券売機ではキップを購入しなかったので、自動券売機で発行した1回券も消印機で日時を印字する必要があるかどうかはわかりません(ドイツ的合理主義からすると日時印字済みのキップが買えるような気がします)。

でもって、写真中央に見える、中ぐらいのオレンジ色の箱が、消印機です。

そして写真の中央右、扉のそばの柱にとりつけられているオレンジ色の小さい箱は、停留所で車内から扉を開けるスイッチです。運転士の停留所でのスイッチ操作だけではドアは開かず、乗客が個々のドアのスイッチを操作してはじめてドアが開きます。

写真の左の赤いボタンが「降車合図ボタン」です。写真では上部の系統番号(“5”)と停留所名の表示器の左側に“wagen hoelt”のサインが出ています。

この時期の超低床車輛は、まだ客室床面が全部超低床にはなっていませんでした。動力台車上部の床面は高いので、写真のように客室内にはステップが残っています。

写真:カッセル市電の車内
☆写真はカッセル市電の車内(1993年撮影)

車輛に書かれたメッセージ

写真はカッセル市電の車輛に書かれたメッセージです。

カッセルの市電には未来がある

カッコイイですね。

ヨーロッパの市電も存続の道のりは決して平坦なものではなく、1990年代、生き残り方策の一手として超低床車輛の開発が進められました。カッセルはその先鞭をつけた都市のひとつです。

技術開発の流れとしては、カッセルやグルノーブルのような従来車輛の延長にある超低床車から、特殊構造の台車を用いた全面超低床化へと進み、車輛メーカーの複雑な吸収合併も経て、今日の有名メーカー製の量産LRVが実現することになります。

パテントに守られた欧州系メーカーの特殊構造の台車に対して、日本でも2001年よりメーカー8社が共同で独自の技術開発を進め、現在、成果が広島電鉄の5100型(グリーンムーバーmax)を第1号とする国産超低床LRVとして結実しています。

日本独自の技術としては、運賃収受に関する技術もぜひ開発されてほしいところです。

写真:車輛に書かれたメッセージ
☆写真はカッセル市電の車輛に書かれたメッセージ(1993年撮影)

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