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フランス・リールの路下電車

取材・執筆:長谷川 吉典(写真とも)

路下電車

自動車交通の多い道路で市電の円滑な運行を確保するためには、併用軌道ではなく専用軌道にすればよいのですが、しかし電車専用レーンは狭い街路では実施しにくく、また路面の混雑を救うことにはつながりません。

そこで、欧米※では、既設線の改築や新線の建設にあたって都心部など交通混雑の激しいところでは道路の下のトンネルに市電を引き入れることが行われています。

※ボストン、フィラデルフィア、ブリュッセル、シュツットガルト、ケルン、他多数

日本では「路下電車」という呼び方(だけ)がありますが、京都市のLRTの報告書やリーフレットではLRT整備のデメリットとして道路の混雑激化をかなり気にしているようですし、それへの対応策となる施策メニューのひとつとして「路下電車」も頭の隅に置いておくとよいかも知れません。

さて、写真はフランス北部の都市リールの市電です。地上の専用軌道のようすです。

リールの公共交通機関としては、市電とバスのほか、VAL(無人運転の地下鉄)があります。VALの整備にともなって老朽化していた市電の廃止が議論されましたが、1989年に市電の近代化が決定されたそうです。

リール市電は1991年から大規模な近代化改修がはじまり、現在では100%低床車が走っています(1993年の時点ではドイツからの中古車輛を使用していました)。ちなみに、1995年開業のユーロトンネルはまだ工事中です。

写真:リール市電の地上区間
☆写真はリール市電(たしかRepublique通り:1993年撮影)

路面から路下へ

写真はリール市電が路面から路下へもぐる箇所のようすです。

写真は標準レンズ(35mmカメラに50mmレンズ)で撮影しました。こんな感じで、ぐいっと路面の下にもぐっていきます。

架線のラインに注目していただくとわかりますが、地上区間ではパンタグラフを一杯に上げた高さに張ってある架線が、トンネル区間では位置をぐっと低くして張られます。あわせて路下電車が路面のすぐ下の浅いところを走るのがわかると思います。

写真:路面から路下へ
☆写真はリール市電(Clemenceau:1993年撮影)

路面のすぐ下の電停

写真は「路下電車」の電停のようすです。

リール市電は衰退期に都心の路線が全部廃止されて、都心と郊外を結ぶR系統とT系統の2つの系統だけが残ったのですが、その両系統の電車が写っています。

あちらでは地下空間を日本のように蛍光灯で煌々と照らす作風がないので照明が暗くて写真では穴倉のような雰囲気がありますが、地上からの深さは深くありません。

信用乗車方式なので、改札口はありません。ホームから出ている柱に取り付けてあるオレンジ色の箱が消印機です。

電停を路下に埋めたことで、VAL(無人運転の地下鉄)とは同一レベルというか改札口がないので同一ホームで乗り換えできるようになりました。ここでの市電の路下化には、たんに路面を自動車に明け渡す施策というだけでなく、公共交通機関相互の連携を密にする前向きの意味合いもあるといえるでしょう。

写真:路下の停留所
☆写真はリール市電(Lille−Flandres:1993年撮影)

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