報告・資料の目次

第2回 「京都におけるクルマと公共交通の競合と共存〜交通需要管理(TDM)」

日時
2002年8月31日(土) 13:30〜17:00
会場
京都商工会議所
討議参加メンバー
コーディネーター
佐々木 佳継 氏 (地球温暖化防止京都ネットワーク)
話題提供・問題提起者
北原 良彦 氏 (株式会社計画情報研究所 代表取締役)
新田 保次 氏 (大阪大学工学研究科助教授)
円卓会議コアメンバー
北村 隆一 氏 (京都大学大学院工学研究科教授)
中川 大 氏 (京都大学大学院工学研究科助教授)
酒井 弘 氏 (社団法人システム科学研究所)
藤野 祥一 氏 (河原町商店街振興組合理事)
土井 勉 氏 (千里国際情報事業財団)
山下 信子 氏 (京都弁護士会公害対策・環境保全委員会副委員長)

セッション1 TDM施策・交通社会実験の事例

話題提供1 金沢におけるTDM施策と交通社会実験の経験

話題提供者 北原 良彦 氏 (株式会社計画情報研究所)

金沢のTDM施策は、単なる需要管理だけでなく、道路容量の拡大施策と需要管理、マルチモーダル施策の三つで総合交通円滑化をしている。まだまだ行なわれている道路づくりとあわせて行なわれるTDM施策について、お話いただいた。

都市の目標

交通環境

主な交通政策

金沢都市圏における主な交通関連計画は以下のようなものがある。

これまでの交通施策の取組について

金沢市の交通施策を整理すると以下のように分類できる。

新金沢交通計画

基本理念…「ひと・まち・環境が共生する21世紀型交通体系の構築」

四つの目標
  • 環境負荷の小さな持続可能な都市を形成する交通体系
  • ひとにやさしく安全・安心な交通体系
  • まちの魅力を高め活気づける交通体系
  • 交流を促進する円滑で快適な交通体系
数値目標
  • 鉄道、バス利用者数を1995年比で10%アップ
  • 全市民が、月に一度は自転車を利用せず、公共交通や自転車に転換
  • 交通運輸部門の二酸化炭素排出量を1995年レベルで安定化

交通政策全体の目標

このように交通政策全体を6つに分類し、それぞれの削減目標と目標値を定め、2010年時点における二酸化炭素排出量を1995年レベルで安定化させる(2010年レベルで34%削減)ことを目標とした。

金沢都市圏交通円滑化総合計画

バス利用促進策

今年度はバス網を大幅に再編する。実験に終わるのではなく4月以降も行い、金沢の大きな交通網を創ることを目標に行っている。

話題提供2 英国の交通まちづくり戦略をめぐる動き

話題提供者 新田 保次 氏 (大阪大学大学院工学研究科助教授)

質問

酒井(システム科学研究所)
(北原氏に対して)公共交通について市民の動きはあったのか?
北原
交通に関しては交通市民会議があり、政策提言、高校生と活動したりしている。また、公務員、民間企業、商店街などの若手の人間が「立場上言えないこと」を言って政策提言をする「金沢の都市と交通を考える会」がある。
会場からの質問
金沢には、市電があったと思うが、廃止理由は?
北原
市電がなくなった理由は京都と同じで自動車交通に対応した都市形成をするという目的である。運営母体は北陸鉄道。なくなったのは昭和50年代である。
都心部の渋滞をどう解消するか、ということで住居、工場を郊外へ移し、そのために市電を廃止し、自動車交通に対応したまちづくりが当時の都市政策だった。

セッション2 京都における交通まちづくり

話題提供

土井 勉 氏 (千里国際情報事業財団)

観光地の課題と魅力

右京区の交通問題

話題提供

藤野 祥一 氏 (河原町商店街振興組合)

話題提供

山下 信子 氏 (京都弁護士会公害対策・環境保全委員会副委員長)

質疑応答

Q 会場からの質問
金沢、英国、オランダの場合など話があったが、交通政策の主体は誰なのか、交通施策の提案や立案さらには実施について市民はどのような形で参加しているのか。
A 新田氏
政策や計画の主体のオーストライズは最終的には行政である。オックスフォードの場合は、行政が政策を立案し、計画を策定し、それを市民に提示してヒアリングをする。異議があれば修正し、再び市民に提示するということを繰り返して最終段階で市民意見の聴取が終わったら、市の関連委員会で審議決定する。それでもなお異議があればインスペクターが、レフェリーとして行政に修正を促すというシステムになっている。市民参加は公共市民としてどうやっていくかという役割で参加、それも構想、計画段階で入った方が良いと思う。だが、日本では第三者が入る機関がない。
A 北原氏
日本の場合、道路は国道、都道府県道、市町村道それぞれ建設主体、管理主体になっている。また、規制については全てが警察の役割である。また、公共交通はその事業者が行なうという形になっている。交通基本法をつくり、施行していく場合、それらを全て一本化してやっていかなければいけないのではないか。合意形成については、議会承認されれば合意形成されたとみなされるが、そういった形はもう綻びだしている。
Q 会場からの質問
車で子どもを亡くした身として発言するが、安全なまちについてイギリスなどの事例は日本で通用することなのだろうか。
A 新田氏
安全の問題は基本である。それを守れない交通計画ではダメである。ハウテンというオランダのニュータウンだが、自転車道がメインストリートになっている。安全を設計思想にどう生かすか、運用の仕方が重要だ。
Q 佐々木氏
京都の交通政策、TDM施策において何が大事なのか。
A 北村氏
重要な課題として、誰が計画や施策をつくるのかということがある。日本はその制度がない。「地域自決」が前提だと思う。だがその仕組みが全くないのが問題。行政主体から市民主体に変えるべきである。住民が中心になって行政がサポートするようなシステム、仕組みが必要だ。交通マスタープラン策定段階などで見受けられるのは、密室的なところで大事な計画が作られることである。良い制度になれば住民が「良い計画」と思うようになるだろう。
A 中川氏
安全の話はきわめて重要で、そのリスク管理のようなものはまだできていない。それが常に反映されるようにしなければならない。市民が参加することが責任を持つということとつながっていくことになる。意思決定については参加をしてもらう、失敗した際にはそれなりの責任をとるという形にするべきだ。例えば、醍醐のコミュニティバスはひとつの例になっていくのではないか。
A 酒井氏
TDMで金沢であったような優先順位の京都バージョンをつくっていかなければならないだろう。京都府も京都市も交通の総合計画がない。大きな都市づくりの理念と具体的なTDM施策をつなぐ交通マスタープランがないと優先順位に立ち戻れない。市民から行政を巻き込んで、同じテーブルにつけるようにしていったらどうか。「歩いて暮らせる街づくり推進会議」で議論になるのは、一番は安全。優先順位を京都用につくることが必要である。

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セッション3 討論〜市民参加でめざす持続可能な交通システムの実現

討論

会場から
嵐山についてだが、バス専用レーンが守られていない。標識だけあっても守られない、TDMを実行する場合も強制力がなければ意味がない。
北原氏
バス優先レーンの確保についてだが、4車線ないとバスレーンはできない。そういうところは限られているのでリストアップされている。警察の基準や、周りの交通に影響を及ぼさないところを照らし合わせた上で設置されていく。大きなマスタープランがあって、その中で意図があって、それから基準に採択される。守られていないのも事実だが、緊急雇用対策で雇っている人が「バスレーン実施中」という看板を出すことで、わりと金沢では守られている。
荷捌きの問題だが、裏通りに「荷捌き駐車場」ができている。多少の目こぼしはあるが、基本的に路上での荷捌きは規制時間外だけである。
P&Rについては、通勤時、GW・イベント等休日、大規模イベント時3種類ある。
  • 通勤時のP&Rは苦戦している。専用駐車場ではなく、郊外の商業駐車場を使わせてもらっている。商品券を買うと駐車料金が無料になるという仕組み。
  • 休日は金沢西、東の両インターチェンジの周辺に650台の駐車場を2箇所用意している。平成12年度の実績では、一日は1000台くらいの利用があった。金沢市の中心部には3000台分くらいしか時間貸駐車場がないので、この分をカットするというのは非常に大きな効果があったといえる。
  • イベント時については、昨年やったイベントでは、7000台分の駐車場を郊外部に用意した。ピークの時でだいたい5000台の利用があったので成功したといえる。概ね休日イベント時は成功したといえよう。
バスロケについては、国土交通省から補助を受けている。「バスクール」(携帯電話バス情報システム)も併用している。
山下氏
交通基本計画の単位、範囲についてだが、手法として、組合形式などは欧米では実施されている。こういう形も参考になる。
ロードプライシングについて財源で何をするのかという質問に対してだが、一般会計の財政状況だが、国税が48.8兆円で58%、地方税が34.7兆円で42%。地方が公共交通機関の整備を行なおうとした場合には、その独自財源の他に地方交付税とか国庫の補助金などの国からの支援として25.4兆円くらい必要なのではないかという試算がある。
現在、国の予算頼みになっていることから国の意向やアイデアに左右されやすく、地方での政策策定能力が涵養されない弊害が生じているという指摘がある。財源で収入は国税の方が多いが、支出で必要なのは地方が多いという逆転現象があるので、少なくとも支出の比率に対応した税配分にしていくべきではないか。
特別会計の分野ではガソリン税や軽油引取税なども、道路整備の水準が一定水準に達している現在では廃止していくべきで、その分をガソリン税ということを地方税にまわして、地方の交通計画の自主財源にしていくべきだ。また、ロードプライジングで集まった財源も他TDM政策や公共交通機関を充実させるための施策に振り向けていけばよい。
中川氏
企業の自由な活動と交通抑制について。大店法、周辺との調整についてだが、企業活動は基本的には自由だが、社会的コストを負担した上でということが大前提だと考える。大店法にはTDMの考え方は入っておらず、むしろ駐車場の付置義務があるために、自動車の発生を抑える力はない。自転車や公共交通で来てくれるお客を優先するお店を高く評価するようなことが必要。
大規模な施設、商業施設、あるいは病院などの責任についても、立地、建設、運用に関する計画の中に組み込まれていくようにすべきだ。地域のなかでの計画というのがきっちり作られていくことで、それに従って多くの企業活動が行なわれていくという姿になってほしい。
当面われわれができることは、交通について大切に考えている企業を消費者としてチェックすることである。これが企業にプレッシャーをあたえることになる。
酒井氏
地域がこれで行こうという決断については変えにくいものだと思う。鎌倉市の市民憲章では、「観光客の車は断りたい、自分たちも控えたいと」いうことを明記していた。
藤野氏
市民ができることとしての実例を挙げる。河原町商店街に大型店ができることになった。大型商業施設は付置義務により、20台分の駐車場を作らなければならない。しかし河原町通沿いには作れない。そこで裏寺町側に作ることになった。しかしタワー型しか作れないその費用は5億円かかる。そこで商店街側が自転車駐車場を作ることを提案した。それで5億円かかることが数百万で済むようになった。しかし、その無料駐輪場に自転車バイクであふれるようになって問題も起こっている。企業にも地元住民にも利益がある提案を誰がするのかどこがするのかをきちっとすることが大切。まず、市民と商業者で進めて後から行政が入るのが京都スタイルとしては良いのでは ないか。
土井氏
(会場からの質問に対して)一方通行は守られていると思うが、知らずに破る人が多いだろう。
まちづくりは関係する人が一同に意見をいう場がないと力にならないので、場をつくることが必要だ。
幹線道路と生活道路のメリハリはつけたい、というのが地元住民の声である。
会場からの意見
大学が市外に出て行っていることに危機感がある。全線通用の定期券を学生に販売したらどうだろうか。交通局は学生をどうバスに乗せるか知恵を絞るべきだ。

最後に

新田氏
万博公園は観光シーズンには身動きできない。1キロ進むのに1時間程度かかる。大型店舗が茨木市にもできたので、昼からは動けないというところがある。
審議会等で計画段階では通るが、後のチェックが日本ではできない。迷惑をかけているのに、罰則を科せられない。負担を社会的に吸収できるシステムが必要だ。
北原氏
地域最適と全体の不利益は金沢市では問題になっている。ノルウェーでは市民には反対が多かったが、市長が通しているという話がある。失敗すると行政訴訟となる。
TDMはやった人に何らかの便益が上がるようにしなければならない。金沢では一つのものの効果はわかりにくい。小さな施策でも積み重ねれば、がまんしてよかったというものができるのではないかと思う。
北村氏
地域の最適と全体の不利益というのは常についてまわる。法体系をもう少し早く変えることができればかなり解決するのではないかと思う。制度に着目すべきである。各々が自分のやりたいことをやれば、その結果として全体の不幸になってしまう。
どのように市民が協力して社会的行為を行えるようになるかがポイントだろう。そのような教育が小学校くらいには入っていかないといけない。そうなると、2世代3世代後には良くなるかもしれない。これには時間もかかる。
もう一つは、お金がかかるが、ジレンマの強度が弱くなるようにする。例えば、駐車場があれば違法駐車はしない。公共交通が便利になれば、そちらを使う。これは時間とお金がかかる。そうでなければ、警察国家にするしかないが、これではおもしろくない。
時間がかかるか、金がかかるか、警察国家になるかということで、なかなか良い出口が見つからないが、こういう活動を通じて、だんだん人々の考え方、あるいは新たな価値体系がどんどん広がっていって問題が解決してほしい。


京都の公共交通の未来を創る市民フォーラム  共催: 京のアジェンダ21フォーラム  NPO法人環境市民

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