報告・資料の目次

第5回 「より使いやすい公共交通のネットワークを考える」

日時
2002年11月30日(土) 13:30〜17:00
会場
京都YMCA三条本館地下ホール
討議参加メンバー
コーディネーター
杦本 育生 氏 (NPO法人環境市民代表)
話題提供者
小谷 通泰 氏 (神戸商船大学商船学部教授)
横江 友則 氏 (株式会社スルッとKANSAI 事務局長)
円卓会議コアメンバー
中川 大 氏 (京都大学大学院工学研究科助教授)
松村 浩樹 氏 (京のアジェンダ21フォーラム)
酒井 弘 氏 (システム科学研究所)
進藤 盛隆 氏 (右京の交通問題を考える懇談会)
長尾 浩司 氏 (NPO法人環境市民)

セッション1 話題提供

1. ポートランド都市圏における土地利用と交通計画

話題提供者 小谷通泰氏 (神戸商船大学商船学部教授)

(1)広域行政機関(METRO)による都市政策

ポートランド都市圏には、アメリカ唯一の広域行政機関(METRO)があり、そこではサスティナビリティ(現在と将来の世代のために暮らしの質と環境を保全し向上させる)を全面に出した地域の土地利用計画と交通計画が策定されている。

土地利用計画では、都市の成長管理として都市成長境界線を設定している。境界線の内部はきわめて緩やかな形で成長させ、外部は厳格に管理して都市の拡大を抑えている。

地域交通計画では、地域道路の設計・地域の公共交通システムなど6種類の計画を組み合わせてマスタープランを作っており、計画の実現に向けて住民参加を重視している。ポートランド都市圏では'80年代にLRTが導入されるなど、ゼロからのスタートで公共交通網を整備している。

(2)トライメット(TRI-MET)による公共交通の運営

運輸連合―トライメットが、バス・LRT(Max)・ストリートカー(路面電車)を運営しており、あらゆる交通手段をあわせてネットワーク化されている。

公共交通の利用促進のため、都心部にはバス・Max・ストリートカーが無料で利用できる運賃無料区域が設定されている。さらにバストランジットモールが設けられ、案内設備も充実している。

バス・Maxの利用実績としては、公共交通を利用している人は1日約30万人だが、人口の伸びが24%なのに対し公共交通の利用者が50%増加するなど成果をあげている。

建設コストは、インフラ部分は連邦・地方政府が負担しており、道路財源もLRT整備に利用されている。なお公共交通の料金はゾーン運賃制が取られており、指定時間内なら乗り換えても料金は変わらない。また運営のための財源としては運賃は収入の約2割であり、半分は事業者の支払う支払給与税が当てられている。

(3)その他

自動車利用の見直しとしてTDM施策(交通需要管理)が推進され、一人乗り自動車の削減および長時間駐車を防ぐ駐車政策が取られている。

また交通マネジメント協議会(TMA)がTDMの推進役として期待されている。

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公共交通のネットワーク化に必要なもの

2. スルッとKANSAIの取り組み

話題提供者 横江友則氏 (株式会社スルッとKANSAI 事務局長)

(1)スルッとKANSAIとは

スルッとKANSAIは加盟社局内の交通機関を1枚のカードで乗り降りできるシステムである。'96年3月に5社局でスタートしたが、'02年10月現在37社局がシステムを導入し、さらに4社が近い将来システム導入を予定している。また組織的にもスムーズな業務を行うため各社から出資して株式会社スルッとKANSAIを設立し、それを専任事務局としている。

スルッとKANSAIの特徴としては、カード裏面の印字が大きいこと、また残額10円でも乗れ鉄道営業法の壁を破ったことがあげられる。

(2)鉄道・バスの利用促進

鉄道・バスはあくまで移動手段であり、移動の目的は別である。移動の目的となる美術館や施設とタイアップを行う、またフリーチケット(乗り放題チケット)を発売するなど公共交通の利用促進を図っている。またネットワークの拡大に伴って目的となるものの情報を広域的に提供する必要があると考え、「遊びマップ」を発行している。さらに広範囲なネットワークの活用として、フリーチケットを関西圏以外でも発売し、マーケットを沿線から全国、世界へと拡げている。

このような企画をするために、スルッとKANSAI内にワーキンググループを置いてそこに権限を委任しているので、お客様本意の企画が実現しやすくなっている。

(3)ICカードシステム

スルッとKANSAIでは、現在ICカードシステムの導入を目指している。ICカードシステムには、機器更新やメンテナンスコストの削減などのほか、利用者の要望に答え、最新かつ最高のサービスを提供することを目的としている。

基本コンセプトとしては

  1. 自動運賃収受:確実な運賃収受
  2. アメニティ:利用度により事業者の方で割引を適用
  3. ハイセキュリティ:システムの連帯による万全のセキュリティ
  4. ローコスト:精算機・券売機を介さなくてもよいシステム
  5. マルチモーダル:交通機関以外での利用も視野に入れたシステム

サービスメニューとしては、基本サービスの「プリペイドサービス」と選択サービスの「ポストペイサービス」がある。プリペイドサービスとは利用による減算とオートチャージの繰り返しで、残額を気にせずに利用できるサービスである。またポストペイサービスとは利用データの集計によって、利用者に有利となるポストペイ割引を適用できるサービスである。また定期券利用者には定期券サービスがあり、ICカードシステムではこの3つを組み合わせたサービスを行う。

このようにICカードシステムでは改札機を通過するだけで利用できる、出改札機のおける究極のバリアフリーとなり、利用者の要望にすべて応えられるものと考えている。

さらに公共交通機関以外の利用によるポイントを運賃に還元するなど、ICカードを決済インフラとして、移動手段の鉄道バスのみならず移動目的となる施設でも利用できるようと考えている。

まとめ

これまでは事業者が同じパイの奪い合いをするWin-Loseの考え方であったが、スルッとKANSAIの登場によって、加盟者が結束して相乗効果を生み全体の発展をめざすWin-Win の思想へと変わってきている。

セッション2 円卓会議

車に依存しないまち京都を実現するために、
利用者本位の公共交通ネットワークをどのように構築するか

杦本氏(NPO法人環境市民代表)
ネットワークの構築については、現在の制度を利用し現在のハードでもできる具体的な提案と、ハード面を含む社会の改革も含めた長期で考えるものに分けて考える必要がある。まず具体的な提案としてはどのようなものがあるか。
松村氏(京のアジェンダ21フォーラム)
京都市は民間のバス事業者が多く入り込んでいる。これまでは市バス・民間バス会社の協調がなかったが、そのままでは共倒れになるので、共同運行・プリペイドカード化による共通運賃としてもらいたい。さらにはバスと鉄道を含む乗り換え均一制・ゾーン運賃となることを望みたい。
ほかにもバス停の他事業者および同一事業者での統合や、駅内にもバスの発車時刻を表示するなど、案内情報を充実させてほしい。
進藤氏(右京の交通問題を考える懇談会)
バスの定時制を確保してほしい。長距離路線は遅延を起こしやすいので、短距離路線を多くし乗り換えても運賃が高額にならないようにして、より多く乗ってもらえるバスをめざしてもらいたい。
四条通・河原町通のバスのあり方を考えたい。この区域に無料バスを運行し、区域外から来るバスは入り口で折り返すようにすれば、走行時間の短縮・運行経費の削減につながるのではないか。
酒井氏(システム科学研究所)
乗り継ぎを考えた時刻表のシームレス化を望みたい。また公共交通優先の道路システムも時間短縮になれば価値がある。現況では鉄道からバスへなどの情報提供の仕方がうまく行ってないため、地下鉄の利用が少ない。
長尾氏(環境市民)
現行の鉄軌道のインフラ+現行の法制度・財源で交通機関別に柔軟に乗り換えられるようにしてほしい。運輸事業者連合を理想として、社会実現を含めて提案したい。ドイツ・フランクフルトには発展できるLRTの好例がある。
中川氏(京都大学大学院工学研究科助教授)
都市交通に対する発想の転換が必要である。そしてやる気の問題である。ポートランドは自動車交通から公共交通へと転換したいい例で、新しいことをやるとアイデアがどんどん広がっていく。スルッとKANSAIは交通がそれだけでなく市民生活へもつながっていくことを示している。
京都にある公共交通のネットワークは悪くはないが、あるものを生かしていく、新たなものを生み出すというやる気が足らない。アイデアはあるので方策が重要。
杦本氏
用語について確認したい。ゾーン運賃とは? また現在の日本で可能か?
松村氏
市内をいくつかのゾーンに分け、ゾーン内は均一料金として運賃をゾーンでまとめることで区間制運賃のわずらわしさを解消し単純化するもの。各ゾーンの間には緩衝ゾーンを設けることで運賃抵抗を減らす。
中川氏
ゾーン運賃は可能だと思う。フリーチケットのような定額制を一回単位の利用でも実現すると思えばよい。料金面のみならず、最短経路を利用しやすくなることで所要時間短縮の効果もある。
小谷氏
運営コストについては、交通サービスに対して採算性をどこまで求めるべきか。
インフラ整備まで事業者が負担しなければならないのか。今後必要な交通サービスが、いかに効率的で安価に提供されるべきか考えていかないといけない。
また、まちづくりに関してわかりやすく解説・資料提供した、教育現場でも使えるマニュアル・教材が必要である。
ある都市の中で2点間を移動するときにどこでも同じようなサービスを受けられるようにすべき。円滑なモビリティを確保されるのが都市にとって大切である。また都市交通には、お金では計れない都心部の環境改善作用がある。車抑制などのバランス感覚を考えた施策を導入すべき。
横江氏
スルッとKANSAIによって事業者同士が顔を合わせるようになった。異なる事業者間でも乗り継ぎを考えたダイヤ作成が行われるようになってきている。
収入減に対し単価を下げても利用を増やしたい。企画乗車券でどれだけ新規需要が増えるか検証し、のちにICカードでポストペイという形で社会実験をしたい。
(スルッとKANSAIに割引はないのかという質問に対し)割引をするか、ネットワークを拡げるかで後者を取った。ICカード化すればボリュームディスカウントでプレミアがつく。一つの地域でクローズするといいものを作ってもマーケットが広がらない。
杦本氏
では長期的なものではどうか。
松村氏
鉄道駅に違う地点で同一名のものがあるのでわかりやすくしてもらいたい。
ネットワークにおいて、鉄道が線であり、中量輸送機関が面を担い、バスが細かく網をかける形になる。ネットワークの形成には中量輸送機関を導入すべき。
進藤氏
将来的には、四条通にバスを走らせず動く歩道を作ってはどうか。
酒井氏
現状はどこに何が必要かということがうまくいってない。必要なところに必要なもの+ゾーンシステムの組み合わせによって公共交通の魅力が上がる。
長尾氏
長期的なものとしては運輸連合、中期的なものでは結節点を作るインフラ整備、短期的なものでは共通運賃制度を実現してもらいたい。
杦本氏
ネットワークの構築には事業者だけでなく利用者の意見を反映させないといけない。交通マネジメント協議会(TMA)をめざせればと思うがどうか。


京都の公共交通の未来を創る市民フォーラム  共催: 京のアジェンダ21フォーラム  NPO法人環境市民

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