報告・資料の目次

第6回 「公共交通は誰が支えるのか〜財源から考える」

日時
2003年1月18日(土) 13:30〜17:00
会場
京都YMCA三条本館地下ホール
話題提供
佐藤 信之 氏 (亜細亜大学講師)
上岡 直見 氏 (環境自治体会議)
島 正範 氏 (RACDA高岡)
コーディネーター
中川 大 氏 (京都大学大学院工学研究科助教授)

セッション1 【話題提供】

話題提供1

「公共交通補助の指標と自動車の社会的費用」 上岡直見氏(環境自治体会議 環境政策研究所主任研究員)

(1)自動車が社会に与える負の影響:社会的・環境的負荷はスケール毎に違った影響がある。
<1〜100m>路地裏のスケール:
交通事故、子供の遊び場の消失、人々の健康被害、騒音、振動、安心して歩けない道、アイドリング公害、放置自動車
<100m〜1km>小学校の学区、通勤や買い物のスケール:
買い物や通学の危険、店舗の郊外化、交通渋滞
<1〜10km>都市のスケール:
大気汚染、ヒートアイランド
<10〜1000km>国のスケール:
森林破壊、水圏汚染、道路行政と財政の破綻
<1000〜10000km>地球スケール:
温暖化、オゾン層破壊、資源の収奪、南北格差の拡大
(2)貨幣換算する意義

自治体としては、他の課題があるなかで行政リソース(人、金)をどう配分するかという問題がある。不特定多数に説明する際に金の話がわかりやすい。

政策的に実現するためには、

  1. 法律的根拠(法律・条令)
  2. 財源
  3. 客観的・実証的根拠
  4. 具体的技術
  5. 社会的合意

が必要

社会的費用という考え方:
自動車のユーザーは、自動車の費用の一部しか負担していない。残りは税金、社会的厚生の低下、将来へのつけなど。本来ならば自動車ユーザーが全費用を負担すべきだが、その費用が余りにも大きいので現実にユーザーに全費用を負担させることは不可能。現実的には各種の不公平を是正する基準でユーザーに社会的費用を賦課し、その費用を対策にあてる。自動車依存からの転換は、雇用の創出、社会的厚生の向上に効果がある。
貨幣換算の実際的な手順としては、現象面の解明、公衆衛生的影響、お金に換算ということになる。
具体的な数値(試算)の紹介:
大気汚染、気候変動、騒音、交通事故、インフラ整備、道路混雑について、車種別・走行kmあたりの外部費用(ユーザーが負担していない費用)を算出すると、これらの外部費用の合計は、GDPの3.5〜10%となる。
(3)具体的な事例における試算
自動車ユーザー負担:
約48円/km(日本自動車工業会試算)
自動車ユーザー外の負担:
約100円/km(気候変動、健康被害、交通事故、騒音、渋滞、一般財源由来の道路施設等)
都市内近距離移動における外部費用の比較:
東京足立区から横浜みなとみらいまで、家族(大人2人、子供2人)一緒にレジャーに出かけた場合
→公共交通は人数分のお金がかかる。家族一緒に乗ると、自動車が圧倒的に安い。
自動車1,636円(外部費用2,242円)
鉄道2,550円(外部費用127円)
遠距離移動における外部費用の比較:
東京〜福井県→家族一緒に乗ると、自動車が圧倒的に安い。
自動車14,022円(外部費用24,219円)
高速バス27,540円(外部費用9,442円)
航空機64,290円(外部費用97,036円)
鉄道42,120円(外部費用1,397円)
旧京都市電の社会経済的価値:
市電が全部バスになった時 75億円の社会的費用増加
市電が全部自動車になった時 171億円の社会的費用増加
(4)公共交通の持つ社会経済的意義
自動車分担率と交通事故被害者数(人口1万人あたり):
一定の統計的関係がある公共交通利用を増やして、人の移動における自動車分担率を5%減らすと(70→65%)、社会的費用13億2000万円節減できる。
クルマ・道路の経済効果があると言われるが、公共交通にも経済効果がある。
全国のバスを5年間で全てノンステップ化
全国の鉄道駅全てにエレベータを設置
GDP増加4,300億円、雇用増加49,900人
万葉線維持のために一人当たりどのくらいかかっているのか。
それに比べて、道路、駐車場はもっとケタ違いにかかっている。
万葉線 258円/人
新型車両購入 1,000円/人
市内幹線道路整備(H12) 3,750円/人
市営御旅屋駐車場建設 12,500円/人
市営中央駐車場建設 22,000円/人
クルマ依存転換のシナリオ:
技術開発、燃料電池で万事解決ではない。クルマに乗らざるを得なくて乗っている人が多い。交通需要そのものの転換、クルマに乗らなくても済むまちづくりが必要、ただし長いスパンがかかる(1〜2世代)。
どうしてもクルマが必要な交通はある、福祉サービスの増加でクルマが増える要素はある。そのために技術開発は必要。社会的費用をすべて自動車ユーザーに課すのは現実的ではない。幾分かの負担をしてもらって、社会的負荷の対策に使い、総費用を少なくしていくのが現実的な対策であると考える。

話題提供2

「都市鉄道の整備運営に関する枠組み」 佐藤信之氏(亜細亜大学経済学部講師)

(1)日本・東南アジアにおける鉄道整備

従来は、整備・運営を一体化した民間経営で採算性が高い時代で、民間の沿線にビジネスチャンスもあった。

昭和40年代から第3セクターが関わってくる。第3セクターを整備主体とすることで補助金を投入するという、補充金の投入方法としての第3セクターの利用が見られるようになった。

数年前の運輸政策審議会の「鉄道整備の手法」では、鉄道整備は公営による一体経営を基本としている。それで賄えない場合に整備主体としての第3セクターという手法が用いられる。

一方、軌道法による新交通・都市モノレール事業では、道路管理者が公共事業として整備して、第3セクター・公営が無償利用するので、安く軌道事業を運営できるという制度がある。運営主体(第3セクター・公営)にとっては負担が7〜8割回避されることになる。

これは、ドイツにおける、化石燃料に対する課税をして公共交通に充当するという制度を日本にも導入しようということで実現した制度である。

イギリスでは、民間PFIが整備・運営ともに行い、公は補助金を投入している。

日本とおなじような構図が東南アジアにもある。PFIが基本であるが、採算が見込めない場合、日本からのODA資金で公共事業として整備し、民間に貸し付けて運営するという方法がフィリピン、タイ等で行われている。

(2)上下分離(整備・運営の分離)はどのように正当化されるか。

初期投資・運営を続ける費用の2種がある。初期投資を毎年どう配分するかという問題がある。初期投資分を別会社にして、運営会社は利用費を払うという形態が考えられる。

イコールフッティング論(昭和40年代〜):
鉄道は通路の整備費用を負担しているが、自動車・航空は費用(道路、空港等)を直接負担していない。自動車重量税や航空機、燃料税、空港使用料の導入の根拠になった。
上下分離導入の理由付け:
限界費用価格付け
価格は、需要−供給曲線の交点となることが社会的に最も望ましい(パレート最適)。
鉄道は費用逓減産業、初期投資が大きく、大規模になるほど有利になる、このような産業では、限界費用曲線(供給曲線)の性質上、需要−供給曲線の交点で価格を決めると損失が生じる。社会的に望ましい価格を実現するためには、損失分を補わなければならない。
上下分離にすることで(初期投資分を分離することで)社会的に望ましい結果とするという考え方がある。
上下分離導入の理由付け:競争化政策(ヨーロッパ)
競争化圧力、新規参入の脅威を常に現行事業者が感じることによって、結果としての効率化が起こる。鉄道は事業をやめたときに無駄になる費用が大きい、回避不能費用が大きい。よって新規参入が妨げられる、だから新規参入圧力による効率化が起こらない。上下分離によって新規参入を容易にするため、競争メカニズムを導入するための上下分離という考え方がある。
しかし日本では鉄道部門に競争化政策をとらない(国土交通省鉄道局の見解)ので、この議論は参考にならない。
(3)補助金についての考え方

鉄道のように直接的な便益だけでなく非常に広範な重要な便益を社会に与えているものと市場メカニズム(価格)を通じて供給しようとすると最適な供給量が実現しない。補助金を与えて供給量を増やすことが考えられる(逆に、騒音公害等のように好ましくないものについては税をとって供給量を減らすことも考えられる)。

運輸政策審議会で償還型の上下分離・非償還型の上下分離を提案している。償還型では線路使用料をとって建設費用を回収する。非償還型では無償資金を使って建設した線路を無償で貸し付けるという形式である。

個人的意見だが、上下分離しなくてもリース・委託で充分対応できる。例えば青森鉄道は上下分離して県の所有としたため固定資産税がかからなくなった。八戸臨海鉄道ではJRの保線費用に比べ半分になっていて、関係者の話によるとさらにその半分(元の1/4)に出来るという話がある。上下分離という形式でなくとも、部分的なリース・委託でも上下分離的な効果を上げることができると考えられる。

鉄道業の営業損益の赤字額が減価償却費を下回っている。キャッシュフローでは赤字とも言いきれない。

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話題提供3

島正範氏(RACDA高岡)

(1)第3セクター化までの経緯
(2)万葉線の現状
(3)万葉線を含む富山県西部の交通の展望

セッション2 【全体討論】

Q 家族で移動する場合に鉄道より自動車が安い状況を改めるべき、税や使用料を高くし、公共交通の利用を促進すべきではないか。
上岡 「乗車率による差」定員で出している、何が妥当なのかということは非常に難しい。
中川 この数字は平均費用であり、限界費用では別の計算があり得るということで理解できる。
Q 公共交通サービスの質を議論する方法の提案がある。まだできていないが、質を評価するという試みは進んでいる、「地域開発手法のなかで質を議論する」提言に同感。
島 高岡の万葉線は、鉄道軌道整備法に基づき欠損補助があったが打ち切られた。自立的な経営が可能になることを前提として、鉄道軌道近代化設備整備費補助金が古い車輌を低床車に置き換えるということになると、新線を建設する場合は、事業者負担であったが、なんらかの補助ができないかということで議論をしている。
Q RACDA高岡の立ち上げの苦労は?
島 RACDA高岡の設立には行政の関わりが深い。岡山の企画に派遣され、(岡山RACDAの)岡氏との仕掛けについて成功した事例である。自治体や婦人会が署名をしたが、残してほしいという市民が県民に見えてこない、一地域の問題を税金投入するなという声などがあった。
Q 手応えのあった活動について
島 RACDAキャラバン、出前フォーラム、勝手に自治体や老人会におしかけてフォーラムをし、地価の変動、130円→100円にするには、市民が年に一遍往復すればよいという数字を提示した。路面電車に懐疑的だったところでも手応えがあった。
中川 RACDAキャラバンは、万葉線が通っていないところにも行ったという。税金で維持するということは、沿線以外の人にも理解してもらう必要がある。
理論的にも実践的にもできることはまだまだある。我々はこれから何をするのか、市民宣言の形にまとめていきたい。京都は市営の地下鉄・バスは赤字で、特に地下鉄は市の財政を圧迫するほどの赤字である。また、民間が運営している路線は大赤字ではないがもっと便利にできる。あるいは将来の衰退を防止する。改善の方法はLRT、新しいバスシステム、京都におけるプロジェクト等も踏まえながら議論をしてほしい。
Q 伏見区醍醐で行政に頼らず市民でバスを走らせようという動きがあるが、市民参加で公共交通を運営するような動きは他にあるか。
佐藤 くりはら電鉄は運輸費用の1/3が友の会。会費は高いが個人レベルが馬鹿にならない。
上岡 行政のやる気の有無もあるが、公共交通が無い方がいいと言っているところはない。行政は根拠がないと個人の意見では動けない。法律や条令があればいいが、グレーソーンがいっぱいある。市民から動きを起こせばできる。「交通の質の評価」運営政策研究機構で点数化をしている。
Q 岐阜の駅前整備をしている。利用しやすいようにすることを評価する仕組みはないのだろうか?
上岡 歩行を点数化する仕組みはある。終電の時間や点数化が目的ではなく、どこを改善したら点数があがるかというように使える。ただし事業者の評価、道路の使い方は入っていない。
佐藤 フランスのミシュランのような格付けをNPOのようなところでやったらどうか。指標化の取り組みをいろいろしているが、行政や国からではなく、市民でからの格付けを。
中川 乗客が1割増えたら経費の1/3を持つという制度もできる。社会実験も結果が良かったら補助金が降りるという制度もある。

提言・行動についての意見

地価を基準にしている、郊外型、大型店を推進している、駅前は相対的に地価が高いので商業者等が撤退しているなど、現在の都市問題は地価ではなくて面積で税金をかけないことが問題だと思う。
島 高岡駅南にショッピングセンターができた、駅前のスーパーがつぶれ、商店街がシャッター通りになっている。
佐藤 都心と大規模店舗の関係について、英の路面電車の雑誌、1960年代、アメリカ型のハイパーマーケットの進出について書かれている。ドイツの駅前は景観が良く高級住宅地として魅力がある、リングバーンを整備し、中心に自動車を入れないようにして、客も減らないようにした、日本では公共整備は道路中心、利用者中心で自動車利用者が便利に使っているからよしとしてきた。
上岡 経済的要素もひとつだが、スプロール化を抑えようという行政的規制の要素もある。都市計画法の改善を自治体でコントロールできるようになっている。
中川 税制・都市計画的手法と、都心の魅力をあげていくという両面で進めていく必要がある。郊外に立地をしている店舗でも、単に自動車で来る人だけでなく、バスで来る人にも便利にするような動きがある、そういった方向を市民が評価することも必要、鉄道やバスの客を評価する動きがある、圧倒的に多い、一部の利用者のために都心が混雑している。
能村 コミュニティバスなど市民がお金を出すということは重要で、みんなが必要としているものをみんなが支えるという原点に戻ることだ。ストラスブールは公共交通に対する税制を自治体が持っている。環境に悪い行為に負担をして環境にまわして財源を作っていくなど、意見をいただきたい。
佐藤 課税については三重県では税金を公共交通に充てている。法定外目的税というのは可能。だが法務省の許認可は要る。
まちづくりと公共交通について。都心の駐車場は設置義務があるが、一定面積について駐車場を設置する必要、駐車場の運営費用分を公共交通の財源に充てるという手法はどうか?
上岡 久居市(三重県)で電気自動車等低公害車目的税というものを作る動きがあった。新しく自動車を購入する人から課税して、課税コストを引いた財源から、低公害車と普通の自動車の差額を助成する。市長が変わって地方レベルで課税をする例が出ている。市長のリーダーシップで交通条例を作ったらどうか。組織も協力しやすい。
島 熊本ではバリアフリー格付けが話題になり、それに適合する建物を造る人が増えた。また、ISO14000sをとる企業が増えている。環境と経済に結びつける企業にノーマイカーデーに協力してもらうなど、自動車交通を少しでも抑制できれば。
松村 補助制度は沿線自治体の割り振りがある、割り振りで必ずもめる。均分に配分すると不公平がある。
中川 条例・制度も含めて提言する、働きかけるという方向でやっていく。まもなくパブリックコメント募集がある。具体的な提言を。
  • 温暖化防止条例にも公共交通への提言を盛り込んでいく。
  • 条例・制度に関われるチャンス。
京都市は学生・生徒の密度が高いにも関わらず、東京より交通費が高い。若者・教育を守るということを考えてほしい。
中川 単純に減っていくという悲観的な見方がある。いまの学生たちはほとんどバスに乗っていない。数が減っても利用率をあげるという考え方もある。
島 RACDAの議論で、1100人の生徒のうち2割が定期を持つと、200万円(1万円)、全員持てば一人で2000円、雨も降れば雪も降る、2000円で定期を持つのはどうか。わが商品は自分で使わないとだめ。
上岡 環境自治体会議、ゴミとか省エネに比べて交通は遅れている。交通が行政課題だという意識も低い。交通が暮らしに密接に関わっているということを知ってほしい。交通は一律では行かないので、地域の実態に合わせた交通体系が必要だ。
人口10万〜数十万の自治体は概ね自動車利用率が高い。今低いだけに便利にすれば転換をするポテンシャルがある、県庁所在地クラスで小さめのところはやりようがある。
中川 交通はすべての人にとって身近な課題、行政マンも含めてそれぞれの地域には、このフォーラムでいろんなことを学んできた、そのなかで京都はどうしていくのかという具体的な行動をしていく。京都議定書の名前に相応しい交通を、観光都市に相応しい魅力ある交通を、教えていただいた方々を超えられるような交通を実現していきたい。


※全6回の「公共交通の未来を創る市民フォーラム」を通じて延べ400名の参加があった。


京都の公共交通の未来を創る市民フォーラム  共催: 京のアジェンダ21フォーラム  NPO法人環境市民

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